11.09.02
8月28日、葉山のもう少し先の秋谷で設計監理を行ってきました住宅のオープンハウスを開催致しました。請負契約から竣工までおおよそ15ヶ月かかりましたが、急傾斜の崖地に建つRC3層建築の解体工事から始まった工事は、私の経験ではもっとも難易度の高いもので、検討を繰り返した結果、地下と1階がRC ,最上階の2階部分がS造の混構造となっています。
まずは立ち方です。存在の仕方と言ってもよいです。周囲には風景には開いているけど道路側は閉鎖している真っ白な建築も多く、ある意味で地域の風景を作りだしています。巨大なガラス、真っ白な空間、全身で力一杯風景を捉えようとする高さの競争、それらはもしかしたらリゾートとはそういうもの、という先入観がそうさせているだけなのかもしれません。クライアントがどう望まれるかはともかく、建築家までもがそのルートに丸ごと乗ってしまった様な建築は、やはり私には出来ません。
そもそも、この立地に真っ白な立体造形は、彫刻的なアート作品ならともかく、住む為の器と考えれば恥ずかしいです。決して存在を消せる訳ではありませんが、この住宅は下から見上げても見えない、樹木に埋もれた感じがほしく、徹底的に低く計画しました。さらに格子越しに透けた浮遊感と地味な色使い、そのまま通り過ぎてしまうかもしれないほどにシンプルな切り妻屋根。それらは単純な伝統的スタイルではなく、厳しいディテールと普通では絶対にあり得ない構成部材から一目で普通の住宅ではないことが分かってもらえるほどに、特異で洗練された存在を目指した結果です。これはクライアントから伝えられたメッセージの私なりの解釈として極めて重要なものでした。
この住宅は住まいであると同時にゲストハウスの機能も持ち合わせています。主な生活スペースは1階部分にまとめられ、白く金鏝の艶を感じる漆喰の壁に乱反射した光が内部空間に柔らかな陰影をつくり出し、奧に行くにしたがってだんだんと暗くなるグラデーションをつくりだします。ここは明らかに壁勝ちな空間で、建築に包まれている感じを出そうと思いました。開口部の内法高さはぎりぎりまで絞り込み、床も敷瓦と艶のあるフローリングで重心を下げながら重ためなソファーが置かれ、RC特有の重さと静けさが崖地特有の強風時や大雨の時でも安心して過ごせる日常の場として有効に働くよう計画しています。
一方で2階は日常と非日常、屋外空間と屋内空間がオーバーラップした汽水域です。この「汽水域」というテーマはクライアントから与えられたもう一つの重要な要望です。屋外と屋内の中間領域という解釈は容易でしたが、機能面において、特に崖地という立地上、安心して住むために「日常」と「非日常」の汽水域という解釈が新たに生まれました。海に面したテラスは縁側と奥行き2m弱の庇を介して屋内と接続され、微妙な段差を計画し、開口部も全部収納出来る様に計画しました。外周部に壁は一切無く、全て格子とガラスと障子で囲まれているため、透過性が高く光に満ちあふれた空間です。ですが、明るいばかりではクライアントの質感に合わないと思いましたので、光のスケールを押さえ込むために素材に艶のあるものは避け、出来るだけ、ザクッとした質感のあるものを選定しています。例えばフローリングは1階と異なりチークのザラッとした質感のあるものをオイルフィニッシュとし、真ん中にある食品庫とトイレのBOX状の壁はシラス壁、天井もレッドシダーのオイルフィニッシュという素朴で主張しすぎないものでまとめました。
フルオープンにした軒先空間には奥行きのある縁側空間が屋内と屋外の中間に位置しています。フルオープンになる開口部は「繋げること」を目的として計画されることが多いはずですが、私の計画した「そこ」には幾つかの仕組まれた結界が存在しています。それは「床の段差」と「軒の出によるシェルター感」、「陰影」、一間ピッチで建つ75㎜角鉄骨無垢柱による「列柱」です。それらは全て「隔てること」を目的として計画されています。人が居るということをきちんと考えてみたいといつも思います。どこまでも繋がる空間というのは、実は人の居場所が無いということを意味します。人が居るには必ず地形としてのヒントが必要で、その結果としての行為が「座る」「立ち止まる」「寝そべる」といったことです。汽水域としての流動性と同時に、その逆である透けた閾、結界を設けて、居場所として成立させることがとても重要でした。
さらに屋外テラスの延長は階段状に海に向かって下がります。階段状のテラスは椅子となり、その先には手摺りに寄りかかりながら海を眺める場所です。屋内空間とテラスの関係というのは意外にやっかいで、どうしても手摺りが邪魔します。危険を承知でそもそも手摺りが無い建築もたまりありますが、無くすのではなく形態の工夫で見せなくする方が私のやり方に合っていますので、その様に考えた結果でもあります。テラスが階段状に下がっていく理由はもう一つあります。それは1階との接続です。先ほど申し上げました1階と2階の質感の違いを、フロアー間の分断で終わらせる訳にはいかないのです。それでは1件の住宅、1つの建築として統合したことにはなりません。人は動くものです。動く度に変化していく風景とその結果としての感想が実は重要で、私は1階と2階を一繋がりの風景の連続として接続してしまいたいと思っていました。ですので、下りていく階段状のデッキはそのまま折り返して1階まで到達仕組みが重要でした。
長文が過ぎました。オープンハウスには友人知人、先生や学生、メディアの方々にお出で頂き、最後に夕日を見ながらスタッフ全員と記念撮影をして解散しました。ご協力頂きましたクライアント様に感謝いたします。ありがとうございました。心よりお礼を申し上げます。