Report

代田のアパートメント、取手の家竣工レポート

16.12.22

今年の春、acaaにしては珍しく住居とオフィスを兼ね備えたアパートメントが世田谷区代田に竣工致しました。横浜に建つギャラリーとオフィスを併設した「Casaさかのうえ」をご覧頂いたオーナーからのご依頼でした。土地は傾斜地の一角でそこに元々建っていたアパートメントの建て替え工事です。要求された用途と規模を満たす一方で、公共建築として周辺環境に対する姿勢を解くべき問題と捉え、中庭を内包する分棟案と周囲に余白を残す1棟案を作成し、予算計画を含めて施主共々、相当に悩んだ結果1棟案に決定致しました。

アパートメントは合計5戸で基本的には単身者向けのワンルームですが、玄関とキッチン、水回り、主室を合計3つのフロアーでスキップさせる断面構成となっています。私も学生時代にアパート暮らしをしていましたが、基本的にはそれらは全て一つのフロアーでまとまっており、ともすれば玄関から全てが見通されてしまいます。単身者向けアパートとはいえ、やはりacaaに依頼されて設計をさせて頂くからには、新たな価値、豊かさがほしいと思いました。玄関を入って半階上がってキッチンがあり、さらに半階上がると、日当たりのよい主室があり、さらに梯子でロフトへ続く立体構成が、普通のワンルーム賃貸では味わえない生活の楽しさを創りだしてくれるはずです。

傾斜地をさらに掘ってドライエリアを作り、3階建て以上の立体感のある外部の大きな階段を降りていった先にオーナーの住居があります。小さな敷地でありながら、その大階段はオーナーのための庭として機能するように、緩やかに作りました。玄関先の庭は、その結果として緩やかに街と繋がりながらも周囲の目線から程よく守られた中庭の様でもあります。どうしても近代的な箱形のアパートや低層マンションが多い中で、ここは一際目を引く「家型」に拘ってみました。しかし単なる家型ではなくて、内部は大変に複雑な構成になっているというギャップがたまりませんね。簡単に見えてこれほど難しく骨の折れる設計はないのではないでしょうか(笑)

acaaとして始めて集合住宅に取り組みましたが、ご依頼頂きましたクライアント様には大変感謝しております。とても気に入って頂いている様子で、本当に嬉しいです。

さて、続きまして茨城県の取手市に竣工した家です。 まだ若い夫婦のための住居で、敷地の選定からお手伝いをさせて頂きました。10年以上前に造成された傾斜地のてっぺんに建つ家です。複数ある敷地の中から一つをほぼ私が選んだような感じになりましたが、選定理由は単純でした。一番安く、不整形だったからです。つまり、一団の土地を整形で割っていった最期に残る不整形な余白といったところでしょうか。しかもその土地だけが角地で、建物の外観にもかなりの拘りをお持ちであるクライアントには最適であることは間違いありませんでした。

結果として出来上がった家は崖地の先に広がる眺望を反映するように、大きな開口部をもつ2階の畳の間が特徴的で、さらに高さのある吹抜空間に包まれるような中の間、大地を掘り下げた濃紺和紙に包まれる縦穴空間など、まったく趣のことなる空間がそれぞれの自律性を保ちつつも連鎖するように作られています。仕上げや設備機器、収納家具など、奥さんの並々ならぬ拘りを上手に引き立てつつ、空間全体の調律が狂わないように常に微調整を繰り返しながらの設計作業は、これまた大変に骨の折れる作業でしたが(笑)、その困難さが空間の質を伴って味わい深いものになったと感じています。単純な空間は、出来た瞬間にそのコンセプトが透けて見えるほどにデザイン性が強く現れますが、複雑な要望を包含する空間はすぐにはその意図が読めません。従ってある程度の時間と経験を経て、空間の意味がにじみ出てくるものです。クライアントはまだ若い夫婦ですので、その分だけ住まう時間も長く、時の経過とともに空間に味わいを感じて頂ければ幸いです。ご依頼いただきありがとうございました。

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