13.10.21
私達が初めて岩手県北上市の敷地を訪れてから既に3年が経ちました。その住宅が今年の初夏のころ、竣工いたしました。まだ竣工写真の撮影は行っていませんが、レポート致します。
もともと、この敷地には祖父母の家が建っており、現地に行ったときに特に注目したことは角地という性質上、道に面して高さ約2m程度の塀が防犯上設置されており、さらにその塀に付属する様にして敷地内側に向けて小屋や倉が建設されていました。さらにその中央に母屋が建っており、母屋と付属屋との間には迷路の様な不思議な路地空間が広がっていたのです。その立ち方や、塀そのものが形成する街区の街並みがある程度完成されている様に思え、その風景を再度構築するために、塀が建築になった様な家にしようと思いました。問題となったことは、1つは要求床面積に対して敷地がとても広かったこと、2つめは塀を建築化するに際して、当初の塀よりも高さが増してしまうことの懸念でした。しかしいずれの問題点も、それを解決するために導き出された造形とダイヤグラムが、この家の最も重要なコンセプトになっています。
まず最初から平屋でした。その上で迷路のような路地を敷地内に描き、さらにその経路にそって膨らみを持たせて様々な“居場所”を連続してつくってゆきました。まるで家の中を散歩する様に移動に従って明暗や空間のプロポーションが変化してゆく空間です。とりわけ私がこだわったのは玄関の間です。雪国では長靴やカッパの着脱を考えると充実した下屋空間と広々とした玄関が必要で、特に玄関を居室化したいと思いました。この家では、玄関の間に本棚とベンチが設えられ、まるで小さな図書館の様です。さらに玄関の間から約700㎜上がった所に計画した2畳の間も必見です。こちらは冷え性の奥様の為の、この家の中で最も日当たりの良いガラス張りの間です。それら全て、迷路の結果として生まれた幾つもの中庭に面しています。中庭は雪の対策として庇を出来るだけ深く張り出し、さらに基礎高を700㎜で統一して打ち放し仕上げとしました。
一方で外観は街路に面してぎりぎりまで高さを抑えるため、屋根造形をシンプルな切妻屋根とし、屋内の空間規模に沿って同じ勾配で素直に乗せて行きました。すると、必然的に高さにバリエーションが生まれ、外から見ると本当に幾つかの家が寄り集まって建っているかの様な風景になりました。街区を形成するための塀と建築の壁はこの家では同一化されており、軒先と壁の接続部については、歩道からの高さと雨水、さらに雪の対策として構造と意匠のディテールに対して慎重に検討を繰り返し、納得出来るレベルまでプロポーションを整えることが出来ました。
建物の周囲や中庭には布袋竹、紅葉が植えられ、数年のうちに土地に定着したころ、その美しい姿が、この住宅の建つ街角に失われつつある風情を取り戻すきっかけになってくれれば幸いです。遠方の我々をご指名いただき、数年にわたり、毎回の打ち合わせを心待ちにして頂き、さらに我々の提案を歓迎して頂いたクライアントに心から感謝致します。有り難うございました。