Report

木箱の家、竣工レポート

14.04.18

久しぶりに地元茅ヶ崎で住宅が竣工しました。砂まじりの茅ヶ崎、らしく、敷地周囲には緩やかに伸びやかに伝搬する空気が流れていました。

海まではあるいて10分くらいでしょうか。敷地は砂地、古家の立て替えですが、元々建っていた木造住宅は小さくてシンプルな切妻屋根の平屋でした。朽ち果てそうなその家屋の周囲は雑草とともに木が茂り、独特の怪しい風情すら漂わせていました。

僕はその敷地に立って、素直に「家」を表現したいと思いましたし、出来るだけ隙間の多い、建ち方にしないと周りとの整合がとれないと思いました。と言っても、周りには木造アパートと普通の一軒家が立ち並ぶのですが、敷地を取り巻く風景というのは、敷地の周囲だけで決まる訳ではありません。もう少し、例えば半径500mくらいの感じでしょうか。やっぱり、茅ヶ崎の海側(JR、国道1号線より海側をそう呼びます)には、まだ特有の田舎性があります。

隙間をどうやってつくろうかと、そればかり考えて1月以上が経ちました。

基本となる家の型を保つこともおなじくらい大切なことの様に思え、そして小さな箱が幾つかに分離してゆく過程を表現しました。母屋と離れの隙間は、半戸外ですが、完全に家の中です。外ですが、雨は降らない、それも家の中です。

そこが、もしかしたら理解が難しいところなのかもしれませんが、現代は屋内化された床面積だけを評価し過ぎです。その結果、軒先空間や縁側のようなものが、まるで形骸化して生活とは何ら関係のないオブジェクトに成り下がってしまいました。人が居るために、生活をきちんとバックアップし、様々な時間や季節、イベントごとに変化する居場所を提供するための不可欠な場所は、それは屋内であると同時に屋外や半戸外だと思います。

この住宅は、離れが3つあります。それぞれ半戸外の「中庭」的空間を経由して辿り着きます。そのうちの一つが洗面室とトイレとお風呂を格納した箱です。我が家もそうなので、そんなに大げさに言うこともありませんが、つまりこれはかなり気持ちのいい事なのです。

台風がくれば経路のデッキは濡れます。ですが、自然をどうやって自身に引き寄せるか、ということは都会人となってしまった日本人は、実は皆切実なまでに思い悩んでいる事なのではないでしょうか?

まだ若い夫婦のクライアントですが、春には新緑の紅葉に覆われ、秋にはススキ畑のさざ波に浮く、そんな風景が数年の内に完成することを祈っています。

ご依頼頂きありがとうございました。

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