14.06.21
3期工事に渡り、設計監理を行って来ました岐阜の住宅が竣工いたしました。
夫婦のための終の棲家として計画されたこの家は、岐阜の駅から車で5分という立地ですが、この一角だけでも他とは違う空気を作ることを使命として施主から依頼されました。
格子の引き戸を潜ると竹に導かれるような路地を歩き、左に折れると玄関があります。玄関を入ると、基本的にはワンルームの空間による全体性を感じつつ、中央のコア(収納と構造を兼ねています)による視線のクビレと、敷瓦によってカウンターレベルまで持ち上げられた地盤のメタファーが居住空間を包み込みます。外周部は全て障子で覆い、終日、太陽の動きに応じて竹の揺らめきを障子へ映し込みます。そこは格子と竹と障子によって切り取られた、中庭の中に浮かぶ住空間です。
私の設計テーマでもある居場所の創出ですが、この家では、敷瓦によって持ち上げられた地盤面を堀込んでニッチ空間を作り出すことによって実現しています。分かり易い例えでは竪穴式住居です。テレビの間や俳句の間、畳の間やキッチン、全て同じ方法でデザインされています。そこに座ると、深さの浅い穴に座り込んだような安心感とスケール感を得られ、適度に周囲から切り離された感覚を得られるようにしています。一方で立つことによって空間全体が見渡せ、連続する敷瓦の意匠が空間の連続性を強調しています。つまり、個々として居たいときと、全体として居たい時の精神的な差を、自分の居る位置によって調整する仕組みです。
歳を重ねた施主であるほど、個々に異なる時間の過ごし方を受け止めるための適正な空間スケールの居場所がたくさんほしいと思っています。それぞれはとてもコンパクトでよく、しかし伸びやかに広がる全体性を感じることが常に大切です。自分の居場所を認識し、そこに居ることと同時に他者の存在を感じることが出来る家です。この住宅では、各居場所に季節や時間におうじて様々な光の変化が楽しめるように、周囲を全て障子で覆ってしまいました。障子によって濾過された柔らかな光が住空間を漂い、気持ちのよい陰翳を創り出しています。これから月日とともに竹のスクリーンも密度を高め、ますます周辺環境からは想像もつかない別世界が完成することを今から楽しみにしています。
ご高齢と言うにはまだまだ健在で、創作活動に情熱を燃やすクライアントに声を掛けて頂いたことに、心から感謝しております。有り難うございました。