18.06.06
あっという間に春を迎えたと思ったら、気がつけば梅雨入りです。そして先月、横浜市本牧で進めて参りました二世帯住宅が竣工しました。以前もレポートしましたが、完全分離型の二世帯住宅ですので、これは割と珍しいのではないでしょうか。完全に分けるメリットですが、街並みの観点から建物の存在を小さく出来ることや、世帯ごとのデザインを自由にコントロール出来るといったことがあると思います。もちろんクライアントによっては、将来一部を賃貸に出したり、あるいは親族、ご子息さんが移り住むこともあり得ますが、壁と天井で世帯が接し合う集合住宅とは異なる、ゆとりある生活が実現するはずです。
この住宅の特徴として、まず外壁が親子で異なります。親世帯は藁を混ぜた土壁風のモルタル壁、子世帯は焼き杉です。どちらも年齢不詳な感じがいいなと思って提案しました。そして、基礎の残土を利用して造営された築山が世帯を繋ぐように配置され、造園家と相談して実現した豊かな植栽が、アプローチ周りだけでなく、道路からでも眺めることができ、四季の表情を豊かにしてくれます。閉じ気味な現代の都市住宅に比べ、周辺環境に対する開き方が大きな特徴とも言えるのではないでしょうか。
住居そのものの特徴としては、親子世帯に共通して縁側を設けたことが挙げられます。もはや形骸化したかの様にも思える様々な日本の様式には、本質的に重要な事物が含まれているのですが、縁側もその一つかもしれません。
縁側は”えんがわ”という部位(物)がその本質なのではなく、縁側を介して行われる日常生活、つまり屋内と屋外の関係の構築やその結果としての趣のある生活風景の実現こそが価値なので、我々は様式性に依ることなく、その本質を見極めて計画しなければなりません。この住宅では、両世帯の縁側が正対しない位置に設けられ(視線がずれる)、さらに1.3mのレベル差(仰角、つまり見上げることと見下げること)と、庇による陰、植栽による見え隠れ、といった複合的な効果により、<内>と<外>、<親>と<子>、さらに<庇護性>と<眺望性>という近代における対立概念を、分節しつつ融合するといった多義的で、様式を越えた生活と環境の共存から生まれる、普遍的価値として捉えています。
朗らかで楽しい施主に恵まれ、建築文化にその価値を問う新しい二世帯住宅が完成したと思っています。設計者としてご指名頂きましたことに心から感謝申し上げます。有り難うございました。
*新建築住宅特集7月号(6月19日発売号)にて掲載予定。